迷える仔羊はパンがお好き?
  〜聖☆おにいさん ドリー夢小説

     9



神と仏の降臨の事実が露見せぬよう、
人目を引かぬようにと、何から何まで地味にこしらえ、
そりゃあ大人しく“お忍び”のバカンスを楽しんでいるはずが。

 よくもまあ、次から次へ色々とやって来るものだ、と

ブッダもイエスも、今日ほど実感した日はなくて。
ちゃんとの出会いや その後の展開は、
ともすれば それを楽しむのもバカンスの醍醐味という、
ちょっとしたハプニングの範疇でもあろうけど。
天世界関係者が暇な頃合いなのか、
それとも…日頃は意識していなかったが、
こうまで自分たちは波乱と仲良しな存在だったかしらと、
今晩ちょっと考えてみようかと思ったほど、
コトの流れと訪のう顔触れの咬み合いようの絶妙さよ。





梅雨どきとはいえ、明るい日和の中を出掛けたはずが、
思わぬ夕立ちと共に訪のうた、
思わぬ存在による唐突な奇襲のお陰様。
それでなくとも
バカンスへ飛び入りして来たお嬢さんのせいで
微妙に落ち着かぬ状況下にあった最聖様がた、
二人してそりゃあもうもう途轍もなく浮足立ってしまったものの。
混乱もたらした張本人であるマーラからの、
罪滅ぼしのそれだろう、壮大でリアルな仕立ての夢により。
雨の中でが見たらしき衝撃的な“何か”への印象を薄めたその上へ、

 『それってもしかして、これじゃあないですか?』

秘術でもある“神通力”を使って、
それは嫋やかで艶やかな娘さんへと転変したブッダが、
どうやって工面して来たものか、大判のポスターを広げて見せて。
それ自体も教えや救いはなさすぎる悲しいお話なのを、
一体どんな前衛的な代物としたものか。
黒髪の人魚というのも珍しい、
微妙に物悲しい雰囲気の寸劇を告知している古ぼけたそれが、
薄暗い中、どこからか いきなり
広がりながら飛んで来たのへ覆いかぶさられてしまい。
視野を埋めたこの図案へ、
おっかなさもあってのこと、びっくりしたんじゃありませんか?と。

 梵天さんから吹き込まれたおりは
 頼った自分が馬鹿でしたと憤然としちゃったほど がっかりしたくせに。
 結局は、ほぼ同じ青写真のそれ、
 “幽霊の正体見たり枯れ尾花”大作戦に
 ちゃっかりと打って出た彼らだったりし。(う〜ん)

同情しますという優しくも切なる情感たたえた、
表情豊かな声音や態度でもって。
とんだ目に遭いましたね、怖かったでしょうと、
それは麗しの美女、タマコさんが巧妙に吹き込めば、

 「…そっかなぁ? そうですよね。」

おっかなびっくりというお顔でポスターを見やり、
それから…横になっていた布団の傍ら、
瑞々しい乳白色の肌にいや映える、
さらさらの深色の髪を肩や背へ垂らした娘さんと同じように、
やはり付き添っていたらしき イエスへ視線を移すと、

 「師匠も見てはないのでしょう?」

そうと訊くさんだったのへ、

 「え? あ、ああ、うん、見てないよ。」

一瞬、何が?と迂闊にも訊きかかり、
向かい合うブッダから、
それは力の籠もった鋭い眼光 カッと飛ばされてハッと我に返るところは、
お約束というかこんな事態のさなかでもマイペースだよなというか。(苦笑)
だって、実際には“見て”というか“逢って”いるのだ、
それでついつい、何を訊かれたのかにピンと来ず、後れを取っただけなのだけど。
訊いた側のとしては、
当然のことながら、そんな背景なぞ知りもしないがため、
そのまま解釈することは出来る筈もなく。

 「ですよねぇ、本当にあんな、腰から下が蛇なんて生き物が出たのなら、
  わたしの看病以上に、
  警察へ通報したり警戒したりとお忙しくしているはずですものね。」

自分がワケの判らないことを言い出したので、
何を見たって?と混乱しちゃったイエスなのだと思ってくれたらしく。

 《 そっか、やっぱり普通の人の子は通報しちゃうんだ。》
 《 マーラにクギ刺しとかなきゃいけないかもですね。》

この後、ブッダからの稀なるメールがあったことから、
マーラにも やや救われた観ありだったかも?……と。
思わぬ事態が錯綜し、すったもんだもしたけれど、
一番の鍵である さんを言いくるめ、もとえ、
後のトラウマから救うことで、何とか決着をみた一騒ぎである模様。

 「あ、まだ横になってた方が。」
 「いえいえ、先生のお宅でいつまでも横になってなんていられません。」

気の持ちようも落ち着いたか、身を起こしたそのまま、
お膝回りで“まずは掛け布団だ”と、
持ち上げた夏掛け布団をぱたぱふと畳み始めたさんなのを見やり、

 「落ち着かれたようですし、それじゃあ私、」

ホッとしたこと示すよに、
その豊かな胸元へ白い手を伏せると、
タマコさんが控えめに微笑みつつ、その場から立ち上がる。
あっと一瞬、何か言いたげに顔を上げたイエスは、
どこか、そう…彼女にすがるような眼差しを向けて来たが、
そこは彼女、もとえ、ブッダ様にも通じていること。

 《 判っているよ。二人きりは怖いんだろう?》
 《 うと、うん…。》
 《 すぐに戻って来るから。
   そう“ダルマさんが転んだ”が5回も掛からぬほどにね。》

ほんの刹那の間、しかも視線だけを見交わし合って段取りをつけると、

 「ではイエスさん、さんも、ご機嫌よう。」

まるで名人の手で丁寧に織られたが故に、
光を含んだ絹の一枚布のように見えもするほどの、
つややかでしっとりした長い髪を揺らめかせ。
シンプルの極み、少し大きめの白地のTシャツにGパンという、
スリットもタックもない武骨極まりない装いだというに。
甘い曲線を余すことなく想起させる、小さな肩に優しい背中。
腕も脚も、均整が取れた絶妙な長さで、
しかも節々がキュッと締まっており。
やや右へ偏ったTシャツの襟ぐりの端から覗くは、
乳白色のなめらかな肌と鎖骨の細さと。
そして、その真下にふっくらと盛り上がった
豊かな胸乳の、何とも蠱惑な見栄えであることか。
それは嫋やかで優しい色香を清楚にたたえた絶品の美女が、
潤みの強い深色の双眸を優しくたわめ、にっこり微笑っての会釈をし、
そちらもちょっぴり大きめのスニーカーをつっかけると、
アパートのやや煤けた扉を押し開けて、
もう雨は上がったらしい、
昼とも夕刻ともつかぬ明るさの外へと出て行ってしまう。

 「…あ、お世話になりましたっ。」

さほどの距離があるでなし、あっと言う間の退出で。
手荷物はなかったものか、
手ぶらでの遠ざかりようだったので、
てっきりトイレに行ってから帰るのかと思ったらしいが、
慌てて、閉じかかるドアの外へ届けと声を張ったが。
その傍らでは、

 “ダルマさんが転んだ、ダルマさんが転んだ、ダルマさんが……”

神の御子である彼にこの例えも何だが、
まるでお念仏でも唱えるかのように、
イエスが勢いよく“ダルマさんが転んだ”を心の中にて数え始めていて。

 “ダルマさんが転んだっ、ブッダもう5回数えたよぉ。”
 「…っ、ただいまっ。」

あまりに必死で数えたからか、
神通力でのテレパシーは使ってなくともブッダにも届いたそれだったようで。
うあ、もうカウントダウン始まったと焦りつつ、
表へ出てすぐ辺りを見回し、一応はの“視野結界”を張り。
ふるりとその身を揺するだけで元の男性の姿へ戻ると、
ほぼ振り返っただけという素早さで戻って来た彼だったのであり。

 《 これはぎりぎりセーフではなかろうか。》
 《 う〜、大まけにまけてだよ?》

何へどう拗ねているのやら、
玄関先の三和土(たたき)から
段差も低い框につまずき掛けながら上がって来たブッダと、
傍目には視線だけでの会話をしておれば、

 「…師匠、もしかしてさっきのタマコさんと恋仲なのですか?」

  …………………………はい?

すぐ傍にいる今だからという、隙をつくよな早口で、
さんがそんなことを訊いてくる。

 「だって、帰っちゃったのをそりゃあ名残り惜しげに見送ってて。」
 「いやあの、それは…。」

そういや じいと見たまんまでいたかなぁ、
ダルマさんが転んだを数えるのに集中してて気づかなかったけどと、
それをそのまま言う訳にもいかずで、あのそのと言葉を濁しておれば、

 「お兄様と同居してらっしゃる内に知り合われたのですねvv」

あああ、何てロマンチックvvと続きそうな笑顔になって、

 「あ、ブッダさんお帰りなさいですvv」

さっきまでタマコさんが、
うん、そこですれ違ったよと、
直前までの話題をあっさり見切っての何食わぬ顔で、
ブッダとの無難な会話を交わしたところは。
さんたら なかなかの切り替え上手と言える、
即妙な機転でもあったけれど。

 《 ふ〜〜〜ん、君、タマコの恋人なのかぁ。》
 《 ブッダったら、何 言い出すかな。///////》

に聞かせるワケにはいかない流れゆえ、
やっぱりテレパシーにてのやり取りを続けておれば、

 「綺麗な妹さんですね。」

その彼女からそんなお声掛けがあったものだから、

 「え? あ・ああ、そうかな、ありがとう。」

身内を褒められたなら、お礼を言うのが無難だと、
咄嗟に応じられたはよかったが、

 「あんなに綺麗で、しかも気立ても良いお方ですもの。
  さぞかしモテモテなんでしょうねvv」

お兄様としては、
信頼出来る方とでなければ
交際させたくはないものですよね、などと続ける辺り。
女子高生らしく“キャンvv”と浮かれた素振りをしつつ、
しっかりイエスへの援護射撃も構えておいでなのが、

 “…おや、なかなかのやり手。”

要領が悪い子だとどこかで思っていたけれど、
対人に於ける機転や何や、こうまで素早く繰り出せるとは、
なかなかどうして いい呼吸をしておいで。
そういや、は老舗に生まれて育ったお嬢さんだ。
人と人とのつながりというもの、
意識するより前から見聞きして拾ってもいただろし、
普通一般の家庭の子よりも、多岐に渡る色々に接して来たに違いなく。

 “もしかして…自分へは不器用って人なのかな?”

育ちがよすぎてのぼんやりさんだとか。いや、いい意味でと。
微笑ましいなと、彼女への見識をあらためつつ、

 「…イエス、ちょっと顔を洗おうよ。」

君ほら、ちゃんを案じるあまり、
外から濡れて帰ったそのまんまだろうよと。
とたとたと歩み寄ると二の腕を取ってそおと立たせてやり、

 《 聖痕が開きかかってるよ、イエス。》
 《 あ、ごめん。》

額にうっすらと赤みがかった汗が降りかけていたの、
に驚かれる前にと
ほらほら洗ってと流しまで連れてって差し上げつつ、

 “…何でだろ。
  タマコがもてるって話題は ふしだらだったかな?”

おやおやぁ?と、小首をかしげてしまわれる、
こちらも微妙に朴念仁かも知れぬ、ブッダ様だったりするのでありました。




     ◇◇◇


ちゃんの誤解とイエスの反応は、まま 後で考察するとしてと。

 「じゃあ、夕飯の支度始めるね。」
 「あ、わたしも手伝いますvv」
 「私も、出来ることだけなら。」

一人だけ手持ち無沙汰はつまらないと思ったか、
イエスまでもが手伝うと言い出した、今宵のメニューは、
野菜とキノコたっぷりのほろ辛カレーと、
コロッケに素揚げのグリーンアスパラ。

 「あと、ワカメとキュウリの酢の物もつけよう。」
 「わぁいvv」
 「あ、ブッダ甘めでね。」
 「うん、判ったよ。」

それぞれエプロンを腰に巻きつけると、
野菜を切り分け、ジャガ芋は皮つきのまま湯がいて、
あちあちと大騒ぎしつつ、3人掛かりで皮を剥き。
刻み玉葱を炒めると、
結局 生のを買ったとうもろこしも、
サッと茹でると芯から実をざくさくと包丁で切り離す。

 「あ、そちらの残り、いただけますか?」

全部は多いかなと、
潰したじゃがいもへのコーンの投入を3分の2ほどで止めたところ、
が手を伸ばして来たので。
おやこれはと、イエスとブッダが顔を見合わせたのは、

 「美味しいの作ってくれるのかい?」
 「はいvv」

二口あるコンロの片やへ、小さいフライパンをかける彼女であり。
カレーの仕上げはオーブンでのまったり加熱となるので支障はないとし、
マッシュドポテト、コーンとホワイトソース入りを冷蔵庫に収めたブッダは、
米を洗うと酢の物の下ごしらえに入るという手際のよさだ。
片や、そちらを見もせずという集中の中、
フライパンの中で満遍なくコーンをいりいりと掻き回すであり。
少しでも焦がさぬよう、
均等に熱が通っての味が染みるようにとだけを思っての作業であるらしく。

 《 精進料理を作る僧侶のようだね。》
 《 うん。》

何だか、これだけの念も籠もるから美味しいんだって気がする。
いやそれはまた別な話なのでは、と。
神通力で何をまたトンチンカンな話をしてますか、聖人の方々。(笑)

 「さあ、出来ましたよ。」

コロッケのほうは、ホワイトソースを入れた関係で、
小分けにする端からパン粉つけて揚げるという
ますますの手早さでかかっての、あっと言う間に仕上がったので。
炊きたてご飯に高温スチーム効果で手早く煮詰まったカレーをかけて、
コロッケとアスパラはちょっとしたお山と緑という大皿盛りにし。
酢の物は各々鉢へ取り分けてのさて、
コーンの…

 「佃煮ですvv」
 「う〜ん、何だか屋台の焼きモロコシを彷彿とさせるよねvv」

口へと含めば醤油が遠くでかすかに焦げてるほろ苦さもなくはないが、
淡く甘いのは砂糖ではなくの出し風味か。
それらがトウモロコシ本来の甘みと相性よく手をつなぎ、
それは懐かしくもうれしい味わいになっており。

 「不思議とカレーにも合うよね。」
 「うんvv」

醤油の甘辛と来ては白ごはんのあてのようだが、何の何の、
ほろ辛く仕上げた野菜カレーにも、
絶妙に…離れかかったところでギリギリ微妙に手を取り合うという、
憎い引き立て合いをする格好で合うから大したもの。
六畳の間に置かれた卓袱台の上、
ブッダの自慢の夏野菜カレーと、
イエスも手伝いましたよのコロッケ。
そして、瑞々しい酢の物の傍らには異彩を放つコーンの佃煮が、
優しい湯気を上げながら、さあ食べてと微笑むものだから。
会話にも弾みがついての
それは楽しい晩餐が盛り上がったのでございます。


 「イエス、にんじん大きいのも食べなよ?」
 「う〜。」
 「師匠ガンバっ。」











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 *このお話は、
  もう一つの”恋ものがたり”とは別次元の設定となっておりますので、
  悪しからずご理解下さいますように。

  ……まあ、この先の展開次第では、合流するかも知れませんが。(え?)

  つか、どうしてだか話が進まないっ。
  要らんことばーっかり並べ過ぎてるんでしょうね。
  う〜ん、悪いくせだぜ、まったくもう。


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